没東京 夢日記

没東京 夢日記

「キミの文章は真実がない」 とコトあるごとに云われる。 そのたびに「つまらん」そう思う。 だからココに嘘と真を混ぜ合わせた文章を書いて、新しい真実を作ることにした。

警笛はもう聞こえない

駅舎を出ると、客引きが私の袖を引っ張った。 「お客さん、泊まるところはあるのかい?」 温泉街だというのに、降りたのは私ひとりで、それでいて客引きもその男だけであった。 「あんた、男の客引きかい?」 私はなんだか妙な気がして聞く。 「女はみんな出…

屋上から警笛まで

屋上にいると、ちょっと柵を越えてみたくなる。あー、この柵を越えた瞬間、僕は自由になれる。――なんて妄想してみる。でも知っているよ。この柵を越えて僕は自由になれない。だって僕を縛っているのは僕で、僕は僕から決して離れられない。 僕はたまに何がし…

銃口を屋上で

広大な、果てのない青空の下。 屋上で僕は生まれて初めて告白された。 高校3年生の夏のことだ。 太陽の光を屋上が吸収して、足の底が燃えるように熱い。 「用って何?」 僕は言ったけれど、本当はわかっていた。 机の中に手紙があって屋上に来てくださいなん…

口づけを銃口に

僕は知っている。 君の胸ポケットには拳銃が入っていて、いつでも僕のこめかみをぶち抜くことができる。 僕は君の一挙手一投足を見逃さない。 机に突っ伏した腕の隙間からいつも君を観察している。チャイムがなるまで僕はそこからじっと動かない。 君はそれ…

雪とカラスに口づけを

雪が傘に落ちる、そのぼそぼそと云った曖昧な感触が、愛おしい。 少しづつ重くなる傘の上にはまだ誰に踏まれていない新鮮な雪が積もっていく。 私はそれを誰にも踏ませないように、傘から落とさないように大事に持ち運んでいく。 雪が降ると妙に神経が研ぎ澄…

趣味と御焼香と雪について

知り合いに良くない趣味の男がいてね、と鹿島さんは話し始めた。 彼は文机に本をひろげて、私に背中を向けている。 だるまストーブの上に薬缶ではなく、酒粕を焼いているのだが、水の中にいるような感覚は抜けなかった。 男の名前はKという。 彼は無類の新聞…

転傾倶楽部と電車のオトコ

鼻に神経なんてないよ、と鹿島さんは云った。 「でもつままれたら痛いじゃないですか」 「それは耳だって同じだろう」 確かにと言葉に詰まってしまう。それなら本当は耳にも神経が通っているのではないか。 「――痛うはないて。と答えた。実際鼻はむず痒い所…

ピアスの穴と神経

くしゃみをすると、鼻から糸がたれてきた。 そういえば中学生の頃、周りがピアスの穴を空け始めた時に、ピアスの穴から糸が出てきて、それを引っ張ると実は視神経で、失明するとかいう都市伝説があったと思い出す。 当時はそれに、ずいぶん恐怖したものだ。 …

とある爽やかな朝のこと

通勤時、満員電車に揺られていると、前に座るオトコが、にやにやと私を見ている。 電車が揺れるたびに、隣のヒトの体重がのしかかってきて、煩わしい。 オトコはそんな姿を見て、笑っているように思われる。 ――なんとなく負けじとオトコを見つめ返していると…

土手とお巡りさん

会社帰りに、少しだけ土手を歩くことにした。川から吹く風が冷たく、外套の襟をたてる。いつも散歩する土手だが、夜になると急に、先がなく、延々と続くように思われた。 先日私を誘惑した桜の木は、もうどれだかわからなくなってしまった。 なぜだかそれが…

隣人とろうそくについて

「冬の、百物語も風流じゃないか」 先輩はふいに云った。 土曜日の夕暮れ、私は特に用事もないので、先輩の家にお邪魔していた。 彼の部屋は築うん十年と経った木造建築の2階で、かぜがふくとよく揺れる。 1階では煙草屋が営業しているので、この部屋では、…

旅行と剃刀について

久しぶりに旅行にでた。 不思議なほど重厚な電車に揺られて、少しづつ寂しくなる車窓からの景色を見ていた。 いつからか雪が舞っている。 冬はもう終わりだというのに、その雪は勢いよく降り続ける。 「――雪なんて聞いていませんね」 隣に座る旅客が、じっと…

蜜柑と梅と、世界が悪い

蜜柑の木が、これでもかというほど元気に咲いている。その横で、枝垂れ梅が、健気にも儚く、見事な枝ぶりを見せている。 「おい、蜜柑。キミも隣の梅のように、美しくあれ」 蜜柑は答えない。 「聞こえてるんだろう。キミは明るい面をしているくせに、ヒトの…

夜の散歩と桜のうろについて

夜中、風が強くて起きた。 冷たい風が枯れ木の枝を切って、びゅんびゅんと音をたてている。 私は目が冴えて眠れない、そこでぶらりと散歩に出ることにした。 部屋着にパーカーとコートを羽織って外にでる。冷たい風が隙間という隙間から入り込んで、体に染み…

公衆電話のオトコ

公衆電話の中で、大学生らしき男が、スーツケースに腰を掛けて、煙草を吸いながらドコかへ電話していた。 夕暮れの、西日が眩しい、四ツ谷駅でのことだ。 スーツ姿のサラリーマンたちが、巣穴に戻るゴキブリのように、なんだか、少し苛ついたように歩いてい…

キミの文章にはリアルがないってさ

「キミは泉鏡花の真似をしてるのかわからないけれど、キミは彼みたいにはなれないよ。彼の文章は現実離れしているようで、真実がある。なんたって苦労してるからね。しかしね、キミの文章からはそれが見えてこない」 それはどうしようもないじゃないか……、と…