とある爽やかな朝のこと
通勤時、満員電車に揺られていると、前に座るオトコが、にやにやと私を見ている。
電車が揺れるたびに、隣のヒトの体重がのしかかってきて、煩わしい。
オトコはそんな姿を見て、笑っているように思われる。
――なんとなく負けじとオトコを見つめ返していると、鹿島さんの話を思い出した。
鹿島さんの友人にAくんという男がいた。
彼は毎朝、始発で、最寄り駅から沿線の始発駅までゆく。そうして1番混む電車に座って乗り込んで、満員電車でいらいらするサラリーマンを、にやにやと見つめるということを、大学在学中、毎日行っていたという。
「意味なんてあるのでしょうか?」
私は思わず鹿島さんに聞いた。
「ないだろうね」
鹿島さんは笑って云った。
「ではなぜそんなことをしていたのでしょうか?」
「君は意味ないことはやらないのかい?」
彼はそう云って続ける。
「意味ないことしかやらないなんて云っていると、いずれ生きれなくなるよ。生きてるコトに意味なんてないのだから」
当時、鹿島さんは酔っていたのか、ずいぶん青臭いコトを云った。
なんとなく、オトコの足を蹴っ飛ばした。
周りの乗客がさっと私から離れていくのを感じる。
オトコは驚いたように、ぎょっとしている。
誰かが私の肩を叩いて、
「次の駅で降りてください」と云った。
「意味なんてないよ、ただなんとなく蹴っただけだ。何が悪い」
私は呟いた。
「君は悪くない、君は悪くないから落ち着いて」
いつの間にかきた駅員は私の肩を叩きながら云った。
乗客は怯えたように私を見ている。