没東京 夢日記

没東京 夢日記

「キミの文章は真実がない」 とコトあるごとに云われる。 そのたびに「つまらん」そう思う。 だからココに嘘と真を混ぜ合わせた文章を書いて、新しい真実を作ることにした。

ピアスの穴と神経

くしゃみをすると、鼻から糸がたれてきた。

そういえば中学生の頃、周りがピアスの穴を空け始めた時に、ピアスの穴から糸が出てきて、それを引っ張ると実は視神経で、失明するとかいう都市伝説があったと思い出す。

当時はそれに、ずいぶん恐怖したものだ。

思わず「家庭の医学」を引っ張り出して、調べたコトもある。

「家庭の医学」に答えは書いていなかったが、何かの書籍で耳に視神経なんてないと知って、とても安心した。

 

――しかし鼻に神経がないなんて言い切れるのだろうか。

不意に思った。思ったら頭の中で恐怖が渦巻き始める。

この糸がなにかの神経であるという可能性は持ち合わせの知識で否定することができない。

私はゆっくりと鼻を啜ってみるが、糸は垂れたままである。

仕方ないので、糸を垂らしたまま生活をするコトになった。

しかしどうにも気になる。例えばこの糸を、ちょうちょ結びにしてみてはどうだろうか、などと考えてみるが、神経をお洒落の手段にしているやつに、ろくな奴はいないだろうと思いとどまる。

とはいえ、やっぱり煩わしい。

なんといっても鼻水と誤解されるのが最も困った。

 

「ねえちょっと、鼻水たれてるよ」

同僚は少しためらって云った。

これは鼻水じゃなくて、何かの神経かもしれないんだよ、と云おうとして辞める。

どうせ馬鹿にされる。

そして、やっぱり鼻水として見られているのかと思うと恥ずかしくなった。

「あー、鼻からなんか垂れてきたけど、鼻水じゃないし、なんだろうこれ」

と私は大声で云いながら町を歩くことにした

それはそれで恥ずかしいのだけれど、鼻水と誤解されないですむ。

しばらくすると町を歩いていても誰もこちらを見なくなったので、安心すると同時に、会社でもどこか距離をおかれるようになった。

町はせまい、と改めて思う。

 

突然――、ある日、起きたら糸が消えていた。

切れたのだろうか、あるいは鼻の中に戻ったのだろうか。

――真相はわからない。

誰かに聞きたいが同僚たちは私を恐れているようだし、町を歩いても避けられる。

鼻から出た糸、キミだけが友だちだったのに――。

なんだかひどい喪失感を感じる。