口づけを銃口に
僕は知っている。
君の胸ポケットには拳銃が入っていて、いつでも僕のこめかみをぶち抜くことができる。
僕は君の一挙手一投足を見逃さない。
机に突っ伏した腕の隙間からいつも君を観察している。チャイムがなるまで僕はそこからじっと動かない。
君はそれはもう上手に拳銃を隠している。
俗に言うクラスメートは彼の拳銃に気がついていて、それが胸ポケットから出てくるのを楽しみにしている奴さえいる。
しかし先生には決してその存在をばらしてはいけない。
なぜならばらした人もまた常に、彼のスコープに狙われることになる。
しんとした瞬間が1番危ない。
君は話題がなくなったとき、その拳銃を1つのツールとして活用する。
その1丁の拳銃が小刻みに区切られた学園生活では本当に有効とされる。
何かの授業で、爆弾が落ちたとき、耳と目を塞いで、口を開けろって習った気がする。
僕はそれを実践する。
彼が拳銃を胸ポケットにしまうまで、世界の片隅に、できるだか小さく小さく、存在しようとする。
いつか、僕は学校に来れなくなるだろうか。
僕は実は拳銃に狙われた2人目の犠牲者で、その前に拳銃を向けられていた子は、学校に来なくなった。
それから僕が、彼らの的になった。
そう、彼らの――。
もちろん僕は君が嫌いだ。
でも、それと同等に君らが嫌いだ。
でも僕もこの前まで君らだった。
拳銃を持つ君と笑わないとしても、傍観をしていた。
助けてくれなんて言わないよ、だってもし君らと同じになれるなら僕は今からでもそっちに行く。
でももう無理だ。
きっと僕はずっとこちら側にいるに決まっている。
それならそれで考えがある。
僕は君の一挙手一投足を見ている。
君が僕に拳銃を向けた瞬間、僕はふらりと立ち上がって、君に向かって歩き出した。
君は驚いたように、拳銃を付き上げる。
銃口からは君の唾が撒き散らされる。
いつもの笑いは存在しない。みんなが呆気にとられたように、この馬鹿馬鹿しい西部劇を見ている。
安心してほしい。僕は拳銃なんて持ってないし、誰かを傷つけようなんて思っていない。
僕は精一杯近づいて銃口にキスをした。
誰もが驚いたように、僕らを見ている。
君はもう引き金を引けない。
君は後ろに下がるしかない。
頬に衝撃が走って僕は床に倒れ込んだ。
君は僕を見下ろしている。
僕は、学校の最下位カーストからキスをされた男に向かって、にっこり笑った。
学校では1つのデキゴトがその階級を大きく左右する。
君はもうきっと拳銃を持てない。